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魔女の弟子の追想   

魔女の弟子の追想2


思い出す風景はいつも雪の景色だ。

彼女を初めて見たとき、そして最後に見たときも、雪だった。

初めて彼女を見た時の事は曖昧にしか憶えていない。
儚い笑顔を浮かべる人だと、ただ思った。
そして最後に見たその時も、曖昧で断片的だ。
最初と同じ、儚い笑顔を浮かべて何かを語りかけるのだけれど聞き取れない。
「・・・・ね・・・・××××・・・・・・・わ」

ねぇ、先生。
貴女は最後に何を私に伝えようとしたのですか?




雪だ。今日は雪が降っている。

この地方は少し寒いものの雪が降る事自体はそう多くない。
私自身は旅に出ている事も多いので雪が降っている時に他所に出て居ればいいのだが、こうして、たまに間が悪いと雪の日に当たってしまう。

雪が降ると気が滅入ってしまうのだ。

見た目の感情に乏しい。それが自他ともに認める私だ。
いつ見ても表情が無く、いつ笑っているのかわからない、と。
見かけにはわからなくても楽しいときもあれば気が滅入る時だって多少はあるのだ。
そして、雪の日はそれがもっとも顕著になる時でもあった。

小さくため息ひとつ。
窓の外へと目をやる。

じっとしていても仕方がない。本格的に積もってしまう前に雪をどけてしまおう。
それができる人間は今ここにいる私だけなのだから。

観念して外套を着込むと私は外へと出るために古い木の階段を降りていった。




屋敷、と呼ぶには手狭なこの家の半分は温室だ。
この家の本来の持ち主は薬草を育て薬を作って生業をたてていた。
今はそれを私が引き継いでいる。
・・・とはいっても薬草はあまり数は育てず、買い付けなどの事情もあって家をあける事も少なくはないのだが。
温室の手前には作業場があり、その奥に倉庫がある。
今用事があるのはその倉庫の方である。
石造りの作業場を抜けて奥へと足を進める。
目当てのものである箒を手に取ると応接間を通り抜け玄関扉へと向かう。
内鍵を開けるとすっかりと冷え切った金属のノブに手をかけた。
ギィっと古臭い扉特有の音と供に少しずつ外の景色が見えてくる。
半分ほど開いたところで、急に扉が重くなった。

「・・・・・?」

雪が積もって邪魔している?
いや、それならば初めから重いはずだ。
何か・・ある?
私は半分開いた扉から外へと出て扉の向こう側へ回り込んだ。
回り込んで、そこで絶句する。

そこには、子供が倒れていた。

魔女の弟子の追想_c0095114_22491176.jpg





思い出の中の、その日は雪だった。

空から雪が降ってきて、近くの教会の屋根にも白い雪が積もっていて。
おそらく私は倒れていて、体は動いてくれない。
声が出ているかも、わからない。
彼女が、泣き出しそうな顔で私を覗き込んで、そしてもう一人、そんな彼女と対照的に冷静な顔をした黒尽くめの女の人。
見覚えがある。誰だったろうか?思い出せない。
あぁ、視界がまた、ぼやけて。

大丈夫、しばらくしたらいつもみたいに動けるから、そんな顔しないで、先生。
そう、伝えようとしたけれど言葉は出てこなかった。
私の瞼は重くなり、意識はそのまま闇の中へと消えた。

by sumomomoti | 2012-02-10 13:09 | モール・モール 駄文

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