魔女の弟子の追想3   

魔女の弟子の追想2
魔女の弟子の追想4



雪が降り積もる。
先生は雪の日が好きだといった。
私が、この家に来た日だから好きだと、そう言った。
先生が好きな日ならば私も雪の日が好きだ。
だって先生は私の憧れであり、恩人であり、大切な家族だから。
私は先生をママ、なんて呼んだ事は一度も無い。
そもそもとして呼ぶ資格があるのかもわからないけれど、私は先生の事を母親のように思っている。

優しい先生、たまに厳しい先生。
最近は何故だか急に身体が動かなくなる時がある。そんな私も先生は気遣ってくれて。
そうだ、今日はいつものお礼に雪かきをしよう。
先生がご飯を作っている間に済ませてしまおう。

そう決めると私は外套を手に持ちそーっと階段を降りた。
先生が台所にいるのを確認して、物音をたてないように作業場の向こう、倉庫へと向かう。

先生は、喜んでくれるかな。
そう思うと、私は少し嬉しくなった。




目を開けると、そこは暖炉の明かりだけが灯った薄暗い応接間だった。
来客用のソファの上に私は毛布をかけられ寝かされていた。
倒れたのは、確か作業場だった筈である。

「私、は・・・・」

起き上がり横に目を向けるとそこには見知った少年、ダニエルがいた。
ここまで運んでくれたのもおそらく彼だろう。
椅子の上で器用に膝を抱えこみ眠っていた。

私はゆっくりと腕を回した。
・・・大丈夫、夢とは違って私の身体は不自由ない。
夢・・・違う、あれは・・・・。

「・・・・・・今は、この子を運ばないと」

そう、考える前にやることがあるはずだ。
このままでは彼が風邪をひいてしまう。
一旦彼に毛布をかけ、素早く廊下の明かりを灯すと私は彼の小柄な身体を少し引きずるような形で抱えて彼に貸し与えている客間へと向かった。

そういえば、と
彼を布団に寝かせながら私は思い出す。
私は彼に先生の話をしたことはない。
彼はたまにする、と言ったけれどそれはない。
私はまだ彼に全ての信頼は置いていない。
ならば彼はどこでその情報を知ったのか?
この街に、先生の事を覚えている人間は私を除いて誰一人としていないのに。

・・・・・やめよう。

この小柄な彼が私をわざわざ応接間まで運んで、傍についていてくれたのだ。
危害を与えるつもりならばその時にだってできた筈だ。
これ以上、疑いを持つのはやめてしまおう。
事情があるのならば彼から語られるのを待てばいいのだから。

「・・・・ありがとう、おやすみなさい。デニー君」

小さく、呟いて。
私は静かに扉を閉めた。



暖炉の明るさだけの応接間へと戻って再びソファへと腰を下ろす。
考えたいことが沢山あった。
何故だろう、いまだに思い出せない事があるにせよ今まで不鮮明だった色々な記憶が頭の中に確かにあった。
机の上に置いてあった写真を手に取る。
どうして忘れていたのか。
黒尽くめの彼女、ユマ・ミシェリア。
いつもこの家にいたわけではない、が思い出の中には彼女の姿もあった。
先生とユマ。
どういう関係であったかは知らないが彼女達はとても仲が良かったように思う。
その様子は姉妹のようであり、旧友のようでもあった。
ユマはとても不思議な人だった。
色々な事を知っていて、とても若く見えるのにその雰囲気は落ち着いていて。
ユマに貴女は何なのか?と尋ねた事もあった。
彼女はいつものようにクスクスと笑ってこう答えた。

「・・・魔女よ。恐い恐い呪いをかける魔女。」

そんなユマの様子を先生は苦笑いを浮かべて見ていた。
魔女。魔法。その昔にあったらしい、もの。
そんなものは今はないし伝承の中にあるだけだ。
おそらく彼女は私をからかっていたのだろう。



「でも、本当にあるのなら・・・・」

あるとするなら、きっとこの不可思議な現象だって説明がつくのだろう。

先生がいなくなった後、街の人々は綺麗さっぱり、先生の事を忘れていた。
否、私が、その忘れられた先生の位置に収まっていた、と言ったほうがいいかもしれない。
誰しもが私を先生の名で呼んで、私自身も自分の名前が思い出せなくなってしまった。
まるで、魔法にでもかけられたように。
まるで、私が先生に成り代わってしまったかのように。
けれど鏡を見れば写るのは私の姿であったし家の中には先生の痕跡がいくつもあった。
何より先生の事を忘れる事などしなかったし、したくもなかった。
あの最後の儚い笑顔を忘れる事など、できなかった。

だから私は、買い付けと口実をつけては先生を探して何度も遠方へと足を運んだのだ。
先生が残してくれたコネさえも利用した。
それでも、先生は見つからなかった。
手がかりさえも掴めなかった。

手がかり。

先生と同じく、消えてしまったユマなら。
記憶の中からも消えてしまっていたユマならば、何か、知っているのではないだろうか?
新しい手がかり。

探さなければ。
ユマを、ユマ・ミシェリアを。










「僕はさ、家族なんて知らないんだ」

自分以外の誰もいない暗い部屋の中、彼はひとり呟いた。

「だからそんなものを持っている人間だって妬ましいし、そんなあたたかいものが本当に存在するなら壊してやるつもりでもいたよ」

「でも」

「でもさ、せんせいは」

そのまま彼の言葉は途切れ、そこには夜の闇の静かさだけが存在した。
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by sumomomoti | 2012-02-10 13:10 | モール・モール 駄文

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