魔女の弟子の追想4   

魔女の弟子の追想3
魔女の遣いの追想


落ちる。落ちる。
まるでいつかの御伽噺のように、私は私の世界から落ちていく。
足を踏み外した愚者のように、転がって、落ちて。

落ちて、落ちて、落ちた、その先に


あの日なくした記憶は、あるのだろうか?








「先生はどうしても思い出したい?」

居候の彼、デニー君がやってきて一年が経過した頃だった。
そろそろ探索を再開しようと支度も、デニー君への説明を済ませ出発をする前日だった。
思いつめた様子で彼はこう私に尋ねてきた。

「僕、先生が誰を探してるか知ってるよ。色々忘れてる事だって知ってる。」

彼は何を言っているのか。
あの写真を持ってきたあの日、彼は話した事の無い先生の事を知っていた。
その後にユマの事を聞くことは無かった。
そしてそれについてこちらから何かを話す事も無かった。
彼が自分から話さないなら聞かないでおこうと決めていた事もあってそのままになっていた。

それが今になって彼の口からついて出てきた。

私が、誰を探そうとしているか知っている。
何を求めているかも。

「実を言えばね、僕はユマを知ってる。そもそもね、僕は自分の上司、クイーンとユマの命令でこの世界に来たんだ。」

曰く、彼は別の世界から命令を受けて私を誘拐しにやってきた。
その命令を下したクイーンを自称する人物は先生を酷く恨んでいるらしく、先生が見つからないのなら代わりに私を、という理由であったらしい。
そしてユマは問答無用のクイーンの命令を穏便に、と内密に「お願い」をしてきた。
命令にお願いに、そしてもうひとつ面倒な事情が重なって、彼はこの地に留まらざるを得なくなった。
私の警戒を完全に解く為に。

「最初はさっさと終わらそうと思ってたんだ。だけどさ、先生が嫌なら僕は先生をあの世界に連れて行きたくない。ユマだって内心ではそれを一番望んでる筈だし、あの世界には先生を守っていた呪いみたいなものはない。危ない目に遭う危険性の方がずっと高いんだ。」
「危ない目に遭うぐらいならここに居て欲しいんだ。クイーンの方は多分、どうにか誤魔化せるし。ほんとは何も言わずに帰ろうとも思ったんだよね・・・でもさ」

そういって取り出したのは一枚の写真。
あの日、ユマを思い出す要因となった写真だった。

「この写真を僕に預けた人がこういった、求めるなら知る権利はあるって。それが望まない結果だとしてもって。その・・・先生の先生の情報はね、僕は殆ど持ってないから・・・望まない結果が実際何かはわかんないんだけど・・・その・・・」

言い淀んだその言葉の先は何となくだけれど、わかった。
恐らく辛い事実が待っている可能性がある。

「君が来た世界にユマは居るのですね?」

デニー君がこくりと頷いた。
迷いがない、と言えば嘘になる。
けれど待ち続けて、探し回って、また待って、繰り返して、繰り返して、繰り返して・・・・。
諦めることも、できなくて、辛くて、苦しくて・・。
このまま此処で死んでいくのと、その先の真実はどちらがより辛いのか。
私にはわからない。それでももう一度先生に会える可能性があるのなら

「でしたら、連れて行ってください。」

たった一言、私は彼にそう告げた。
彼は半ば予想ができたのか諦めたように微笑んだ。

「・・・・先生、纏めた旅の荷物と、あと大事なものはここの部屋にあるよね?」

大事な物。大丈夫だ。全て手元にある。
私は手元の荷物に目を向けると静かに頷いた。
彼はそれを見てから出入り口である扉を指差した。

「今からあの扉を繋げるよ。あんまり穏便には繋げられないんだけど・・・せめて暫くは困らないようにしたげるね。もうあっちの世界に着いたら手助けもできないから・・・。うん、もういういよ、覚悟ができたらそこ開けて。」

特に扉が変わったようには感じなかったのだが何かあるのだろう。
私は注意深くドアノブに手を掛けて扉をゆっくり開けた。

その瞬間に、部屋の中の天と地は反転した。

「・・・・・・・?!」

部屋ごと転がるように、ぐるぐるとドアノブに捕まったまま振り回される。
何度か体を打ち付けながら回転し



「・・・・ようこそ、モール・モールへ」

その言葉の後、気付くと部屋の中の騒動は消え去って、真横になった部屋の中に私は居た。
そこにデニー君の姿は無かった。
そして幸いにも部屋の中も多少物が割れただけで少し苦労しながら準備した旅の用意も、貴重品も、大事なものも・・・運び出す事ができた。

真横の部屋が固定された朽ちた洋館で私は初めてこの世界へと足をつけたのだ。

「ここが・・・モール・モール・・・?」
「・・・あらぁ、お姉さん新入りさんですかぁ?」

まるでお芝居をするような甘い声。
振り返ると洋館の2階部分から小さな女の子が私を見下ろしていた。
階段部分は朽ち果て1階と2階を断裂するように崩れている、どうやって登ったのだろうか?

「・・危ないですよ」

我ながら的外れな回答をしたと思う。
女の子はそんな私の様子をクスクスと面白そうに笑うとそこから突然飛ぶように飛び降りた。

「えっ・・・・・?!」

荷物をその場に投げ捨て慌てて彼女が落ちるであろう地点へと走る。
けれど、女の子は不思議な事にふわりと、その場へと着地した。

「この世界はですねぇ・・・決して、見た目通りに人間ばかりではないんですよぅ・・・?お姉さんは人がよさそうですから、一応教えておいてあげますねぇ・・・?」

そして呆気に取られる私に向かってにこりと微笑むとスカートの端をつまむと恭しくお辞儀をした。
そのまま構う事も無くボロボロに崩れた出入り口の扉へと歩いていく。
そのまま扉を開けて出て行く前に、振り返るとこう言ったのだった。

「ようこそモール・モールへ。あなたが望む真実をつかめますように。」


こうして、私のこの世界での旅が始まったのだった。
















「ひとつ、確認したいんだけど」

目の前でベッドに横たわる少女が私へと問いかける。

「なんでしょうか?テイルちゃん。」

テイルちゃん、という呼ばれ方にこのテイル・クローリアと名乗る少女は抵抗があるらしく若干にそれを隠せないままに言葉を続けた。

「先生、外見は随分若く見えるんだけど年いくつなの?外見は変わってないんだよね?」

この世界に来る以前はよくされた質問を久々に受けた。
この世界、モール・モールは最初にあったあの女の子の言ったとおりに本当に人が見た目通りではなかった。
そして時間の流れすら一定では無い、曰く、一日を繰り返しているのだと。
現にこの目の前の少女は凄い勢いで成長をしている(これはどうも呪いで若返っていただけなので戻っているだけらしいが)
そんな少女がこのような質問をしたのには少々驚いたが問われるままに答えを返した。

「この世界に来る以前の数えでいけば27かと。」

テイルちゃんは少し驚いた様子でそれでもふんふんと頷いていた。
私の外見と年齢というのは釣り合って見えないらしかった。
嘘をついているのだろうと言われた事もあるが変えようが無い事実である。

今現在、私はこのテイルちゃんともう一人、スペイドと名乗る青年と一緒に行動・・・もとい、テイルちゃんの体調の回復の為に街の中に留まっていた。
回復した先にどうなるかはわからないのだが、私はまたユマを探しに行く予定でいる。
デニー君にはあれ以降会えていない、もしかしたらもう会えない可能性もあるだろう。
ただ、元気で居てくれることを願うばかりだ。

「さて、テイルちゃん。スペイド君が帰る前に着替えも済ませてしまいましょうか」

話を中断して、やるべき事へと意識を戻す。

先に事はわからない、けれどやるべき事をして、そして少しずつでも探していけばいいだけだ。




先生、いつか貴女に会う為に。
[PR]

by sumomomoti | 2012-03-05 23:43 | モール・モール 駄文 | Comments(0)

<< 過去話一応終了 らくがき >>