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補足 白雪姫或いは毒林檎の回想   

魔女の弟子の回想

短い言葉を、短いお話を聞いて。
ねぇ、わたし魔法使いに会ったのよ。
素敵な知恵をくれた魔法使いに。





裏庭の片隅の粗末な小屋。そこに今、鼠の死骸があった。
何故そんなものがあるか?
それは決まっている。わたしが今、それを死体に変えたからだ。


その日、わたしは何かに誘われるように山に入った。
家のすぐ近く、化物が住むという山の中。
何故だかわからない、でも、そこに行かなければならない。そう感じて。
道がわかるわけでもないのに足はどんどん奥へと進み、気づけばそこにいた。

甘い香りの小振りの赤い実のなる木。

それは林檎だった。
林檎なんて、木になっているのを見るのは初めて。
その木は周りの樹木から離れてポツンとそこにあった。

まるで人に嫌われるわたしみたい。

その実はまるでわたしを待っていたかのように近づくと手の中に自然に落ちた。
美しくて、とても甘そうな、美味しそうな果実。
わたしは吸い込まれるようにゆっくりと口を近づけて、そして。





「本当に、毒があったなんてね・・・」

鼠は美味しそうにそれを平らげたあとに苦しんで、そしてわたしが見ている前で死んだ。
山の中で会ったあの女の子の言った通りだ。
切り分けた林檎の残りを果汁に触れないようにそっとガラスの瓶の中へと入れて蓋する。
あとは布をかけてこの小屋の戸棚にでも隠しておけば誰も気づかない。
どうせここに人が来るのなんて夜更けぐらい。
哀れなこの屋敷の、妹娘を求めてくる人間ぐらい。

さて、どうしようかな。

鼠があんなに美味しそうに食べていたんだもの。
きっと、きっとすごく美味しいのでしょうね。だったら父様にも、姉様にも、屋敷の皆にも。
食べさせて、あげなきゃね?
その前に熱を加えたらどうなるか、それも試してみないと。
一番いい方法で振舞ってあげないと。

その段取りを考えるだけで、私は自分の心がとても晴れやかになるのを感じた。
上手に振る舞えたら、そうしたら今度はあの女の子、こんな素敵なものの存在をわたしに教えてくれたあの魔法使いのような素敵な子にも会いにいかなきゃ。
そうしたら精一杯にお礼をするの。
心から、お礼を。





今は別の世界、モール・モール。
わたしは既にわたしではなく、あの時の魔法使いのあの子の姿。
いつかのお礼はいまだ果たせず、今日も明日も無いままにきっとこのまま。

by sumomomoti | 2014-01-05 18:41 | モール・モール 駄文

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