モール・モールと箱庭の夢   

モール・モールとは


夢を見ていたのよ。
随分長い夢だった気がする。短くもあった気もする。
聞きたいの?全部?
あたしが忘れない内に?いいわ、じゃあ今から全部話してあげる。
これは夢の中の夢の話、あたしは違うわたしだった。

だからここからするのはしばらくわたしの話。
わたし、魔女リタの話。

c0095114_13261393.jpg




夢の中で、わたしは何人かの同じ年ぐらいの子供達と同じ部屋で生活していた。
窓には鉄格子が外側についていて、一番大きな扉は食事や本、たまにおもちゃを持ってくる大人が通る時にしか開かなかった。
何人かの中にはわたしの親戚の姉さんも居たけれど、姉さんはある日大人たちに連れて行かれてそれっきり。

いつごろからか夢を見るようになった、その夢には窓があった。
わたしが普段見ているような鉄格子が付いている窓とは違う、とても可愛い窓。
見たことは無い筈なのに、どこか懐かしさを感じる窓。
窓の外には森が見えて、それは現実の窓から遠くに見えるものによく似ていた。
わたしは窓の外に出たくて、けれど窓は開かなくて。
窓以外の出口を探して何日か、それは唐突に私の前に現れた。
扉。わたしがかがんでやっと通れるぐらいの小さな扉。
その扉の外側から何かが回る音がして、わたしはようやく森に出る事ができた。
そこに彼女は居た。
金色の鍵の束を握り締めた、ずっと一緒にいてくれた、今はもう会えない姉さんによく似た人。

「はじめまして、こんにちわ」

彼女は、丁寧にお辞儀をしてにこりと微笑んだ。

「あなたをずっと待っていたんです・・・姉さん?いいえ、ごめんなさい。その人とは違うんです」

申し訳なさそうに、彼女は少し俯いてわたしを優しく抱きしめた。

「その人とは違いますが、あなたを待っていたのは本当なんですよ?可愛い私のあるじ。私はずっとあなたを待っていました」

抱きしめて、彼女はこう言った。


「あなたの世界へようこそ、可愛いリタ」



これが、世界の始まり。




彼女はセリア・フォンデ・ミッシェルと名乗った。
いつだったか姉さんの読み聞かせてくれた昔のお話に出てきた名前。
最初は鍵を持った彼女一人だった、その夢にはセリアとわたしだけ。
その世界はわたしが思うよりもずっと小さな世界だった。
端から端まで、頑張れば一回の夢で歩けてしまうぐらい。
少し残念には感じたけれどそれでも彼女はとても優しかったしその夢は私にとってとても楽しかった。
起きている間は夢の世界の事をよく考えた。
仲が良くなった女の子にもその夢の世界の話をよく話した。
その女の子もよく話を聞かせてくれた。
目が悪くなってしまって、治療の為にここに居ると。
治ったら父親と遠い国を見に行く約束をしたのだと、大事そうにいつも地図が描かれた本を抱えていた。
そうしてそのうちに、今度はその女の子が居なくなってしまって。

そして気づいたら夢の中はわたしを含めると三人になっていた。
少し幼いけれど本を抱えた女の子によく似た子、名前をクラウンリーフと名乗った。
その名前は彼女に見せてもらった本にあったどこかの街の名前だった気がする。
本の代わりにガラスでできた球体を大事そうに抱えていた。
その中には森があって、よく目を凝らすとわたしたちが見えた。
びっくりして空を見上げてみても覗き込むわたしは見えなかったけれど、その球体の中はわたしの夢の中を写していた。
隅っこには本で見たような建物があって、わたしはその時になってこの夢が以前より広くなっている事に気がついた。

部屋の中の子供の数はいつの間にか減っていて、減っているよりは少なく、新しい子供も入ってきた。
新しい子供の中でわたしによく話しかけてくれる子も居た。
彼女はとてもお喋りだった。よく外の楽しいお話を色々聞かせてくれた。
そしてたまに「君は逃げたいと思わないの?」と小さな声で問いかけてきた。
わたしはその問いかけの意味がよくわからなかった。
彼女もある日居なくなった。他の何人かの子供と一緒に、夜に扉を開けて出て行った。
前日に「さようなら」とわたしがにだけ聞こえるように呟いて。
その夜は外がとても騒がしくて、わたしは夢の世界になかなか入れなかった。

次の日の夢の中は私を含めて四人に増えていた。
お喋りな彼女によく似た、少し年上に見える彼女。
彼女はレインと名乗った。
また聞き覚えがあった。それはお喋りな彼女がよく口にした、友達の名前だと言っていた。
レインは時計を手に持っていて、たまに時計に向かって話しかけていた。
レインが時計に話しかけると夢の世界は昼になったり、夜になったり、めまぐるしく時間を変えた。

レインが夢の世界に現れた頃にはなんとなくわたしはわかってきた。
起きているわたしの世界で仲のいい人に会えなくなると夢の中によく似た人が現れる。
そしてその度に夢の中は広くなっていく。
そして、夢の中の彼女達はわたしに優しいけれど、わたしの他に大事なものをその手に抱えている。
何故だろう、わたしはそれがとても羨ましく思えてしまって。

わたしにも、大事なものが欲しい。
わたしにだけ、大事なものが欲しい。
そう思うようになって。

もう、起きてる世界は他に子供はいなくて、気がつけば部屋の中はわたし一人だった。
わたしは起きている間はずっと大事なものを探し続けたけれど、相応しいものな何ひとつ見つからなかった。
たまに話をするのも食事を持ってきてくれる人だけ。
その人たちでさえ数日ごとに代わって、一度代わってしまえば同じ人は二度と会うことはなかった。
夢の世界の彼女達はとても優しい。
でもわたしは、わたしだけを大事に思ってくれる人が、欲しかったから。

だから、夢の世界に彼女を作った。

彼女には名前がなかったのでゼックリアと名付けた。
やはりどこかで見た本の名前だけれど、わたしが付けた。
ゼックリアは何も持っていなかった。でも誰よりもわたしを必要としてくれた。
ゼックリアと一緒にいればわたしは起きている現実の寂しさを忘れる事もできた。
わたしが大事で、わたしも大事。
それがとても嬉しかった。


でもそれは間違っていたのかも、しれない。




どうして間違っていたのか、あたしにはわからない。
だってあたしは、わたしの夢をそこからは断片的にしか見れなくなったから。
だから、ここからはあたしの主観が入ってしまう。

間違っていた、そう思ったわたしには時間があまりなかったらしい。
残り少ない時間の中で、わたしはゼックリアにわたし以外の大事な存在を作る事にした。
それは、もう一人の自分。
わたしの影から、姿は違うけれど自分の代わりができる存在を切り取った。
それは思うよりずっと痛かったようで、けれど泣いている姿をゼックリアに見られたくなかったのか、
わたしは隠れるように、影を切り取った。
上手に切り取れなかったようで、それは出来上がる頃にはもう随分小さかった。
作れる一番大きな存在で、せいぜい図鑑で見た猫ぐらいの大きさしかなかった。
だから多分猫にしたのだろう、影の猫。
わたしから切り取ったのだから、きっと、ゼックリアを助けてくれる筈。
その影の猫に自分の時間を託して、わたしの夢の中の夢はそこでおしまい。
起きているわたしの夢だってそこから先はわからない。

わたしがその後にどうなったか、あたしは知らない。
だって、あたし彼女じゃないもの。
あたしはリタなんて名前じゃないわ。
覚えている最初から、アリスよ。

c0095114_13264495.jpg



全部は夢のお話。
夢で、夢を見るなんて随分おかしな話だけれど。

よく考えれば、これ自体も夢なのよね。
人形の体になってから夢を見るのは初めてだから今の今まで気づかなかった。
夢の中でなければ紅茶なんて飲める筈もないものね。
あぁ、でもよく見たら人間の体に戻ってるわ。ねぇ、これって現実?
夢。そう・・・残念。
だったら、いまのは夢の中の夢の中の夢のお話かしら?

・・・・訳がわからないわね。
深く考えるのはやめましょう。

そういえば、あなたさっきの夢の中のお喋りな人に似てる気がする。
気のせい?そう。
とにかくこれで夢の話はこれで全部。あなたが聞きたかった夢の話も全部よ。
そろそろ帰るけどいいか?変なの、帰りたい時に帰ればいいのよ。
あ、紅茶。ありがとう。
もう飲めないと思ってなかったから嬉しかったわ、ちょっと話つかれちゃたけど。
うん、じゃあ・・・さようなら。




「・・・やっと目が覚めましたかぁ?お寝坊さん」

金髪赤目、黒い頭巾を被った目の前の彼女は少し呆れたような笑顔を浮かべて。
その喋り方は知ってる。姿はだいぶ違うけど。

「ミシェリ」
「ふふ、今の名前はちょっと違いますねぇ・・ただ、お喋りしてる余裕はないので後から、ね」

よく見ればちょっと違うミシェリは随分と疲れているようだった。

「あぁ、でもひとつだけ・・いい夢は見れましたか?・・・アリス」

夢、見たような気がするけど、何を見たっけ?
自分の手を見て、開いて、閉じて。
その手はこの世界に来てから変わらない球体関節の手。
何も、見ていないような気がする。
うん、多分見ていない。だって理由は明白だ。
だとしたら答えはひとつだろう。

「あたし・・・多分夢なんて見ないわ。人形だし」

その言葉に、ミシェリは優しく微笑んだ。
[PR]

by sumomomoti | 2014-01-26 00:19 | モール・モール 駄文

<< 小説側更新 魔女と >>