モール・モールと箱庭の外   

モール・モールとは
モール・モールと箱庭の夢

これは既にいない誰かの話。
名前もわからない誰かの話。



???の手記

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赤い目の化物一家。
それが私達の呼び名だった。
赤い目を持つ者は魔の者だと。
だから奴らは人間の振りをした化物なのだ、と。

私と、年の離れた姉と。二人きりで暮らしていた。
人から逃げるように、森の中で息を殺してひっそりと。
昔は母も居たけれど久しぶりに街に出た帰りの道で、はぐれてそれっきり。
姉は忘れなさい、とただ一言告げただけだった。

そのうちに姉が子供を身篭って、女の子が産まれた。
晴れた日の青空のような綺麗な青色の目の女の子。
その子を産んでしばらくして、姉は帰らぬ人となった。
どうすれば良いのか途方に暮れて、それでもこの小さな姪を守らなくては、と。
けれど森の中でミルクなどある筈もない。
私は幼い姪を連れて街へと出向く事が多くなった。
街では今度はこんな噂が流れるようになった。

化物一家の末の娘が、どこかから赤子を攫ってきた。と。

その噂が流れてすぐに、私は捕らえられて姪と引き離された。
どこかから攫ってきたと思われたその赤子はその境遇を憐れんだ貴族の元へと引き取られたらしい。
それなら、それでいいと思った。
私が真実さえ告げなければ、真実を告げたとしても誰も信じなければ姪は幸せになれる。
それならばもう、酷い目に遭っても、処刑されてしまっても、いいのだと。
そう思っていた。

けれどそんな願いも結局は叶いはしなかった。
わたしは酷い目にこそ遭ったけれど処刑はされず、僅かな間離れ離れだった姪は結局私と一緒にどこかの施設へ売られた。
どうして売られてきたのかは、後から施設の人間が仕事の最中に教えてくれた。
姪を引き取った貴族の家で死人が相次いで出たのだと。
病気でもなく、衰弱して、死んでいく。
姪を世話していた乳母が、メイドが、そして珍しさから姪の様子を見に来ていた家の子供も。
化物の呪いだと、攫ってきたその赤子そのものが呪われているのだと、その貴族は主張したそうだ。
呪いを恐れた人達のお陰で私は処刑を逃れる事ができた。

そして私はこの施設へと姪と共にやってくることになった。
そこは窓に鉄格子がついた建物だった。
そこは少なくとも私にとっては、捕らえられていたその時よりもずっとまともな環境だった。
清潔な空間があり、食事があり、少なくとも仕事が少ない昼間は姪と共に過ごせた。
大人しく私が施設の人間に従って、言いつけられる仕事さえしていれば私達の生活は保証されていた。
そうしていくうちに、私は何故私達が此処に買われたのか、それを知った。
そしてそれを知る頃には私はとうに衰弱していた。

彼らの目的は姪の体質だった。
その昔に、私と姪の祖先は魔の者と交わったらしい。
その血は代を重ねる内に徐々に薄れていって私達の頃にはもう忌まわしい赤い色の目を残すのみになっていたそうだ。
そこに姪が生まれてきた。
外見こそ普通の人間の姪は既に絶えた筈の魔の者の血が濃く継がれていた。
覚醒遺伝、というらしい。
姪の周囲の人間が衰弱して死んで行くのは彼女は命を無意識に吸い取ってたから。
姉も、貴族の屋敷で死んだ人間も、その吸われた日数も量も多少の違いはあれど全て姪が命を吸い取った結果なのだと。

そして私も。
私は単純に姪のおまけとして、そしてもしかしたら姪と同じような体質の子供を産むのではないかと、そういった理由から買い取られたそうだ。
結局、おまけ以外の役割は果たせない役立たずだった、そう彼らは笑っていたけれど。
姪をどうしたいのか、という私の質問に対して、死にかけの役立たずには何もできないと思ったのか彼らはその目的をあっさりと教えてくれた。
神様を作る実験、だそうだ。
姪に何人もの命をこの先も吸わせて、最終的にその命を使って神様を作る実験。
馬鹿げている、と思った。
姪を逃がさなくてはと。でも、私の体はもう動かない。
連れて逃げる事も適わない。
出来ることは意識がある内に書き残して隠すことぐらい。

姪は確かに化物なのかもしれない。
けれど私にとってはただ一人の大事な家族だ。
だからもしも、できるのなら誰か彼女を逃がして。
私の大事な、リタを―――――。










「へぇ・・・・・」

ところどころ汚れたメモに目を落とし私、いや僕は呟いた。
ここは僕達、子供達の監禁部屋。
(まぁ僕は実際は子供じゃないんだけど・・・)
ここにも何かないかと探してみたところ隠されたメモを発見したわけだ。
震える文字で書かれた遺書。
そこから目を離して僕は部屋の隅で本を読んでいる人間へと目を向ける。
この遺書に書いた人間の姪、青い目をした彼女、リタ・ロッタル。
命を吸い取る化物。
(なるほどね、通りで足りている筈なのに最近疲れやすい訳だ)
恐らくだけれど、既に多少は吸い取られているに違いない。
僕達は彼女の生贄。黙って此処にいては多分死ぬまで出して貰えない。
もっとも、それは彼女だって同じ訳だけど。
長く此処に留まるのは危険だ。
僕は手紙を折りたたんで彼女、リタへと近づいた。
「リタ」
リタは読みかけの本から目を離し僕の方へと向いた。
「ねぇ、前にも聞いたかもしれないけどさ。もう一度だけ聞いていい?」
首を傾げる彼女に僕は問いかけた。
「君は、ここから逃げたいとは思わないの?」
以前に問いかけた時はこの施設の異常性から。
今度は、別の理由から。
彼女はきょとんとした表情で聞き返した。
それは予想通りの言葉だった。
どうして?と。
「・・・だってさ、、ここあんまり自由に動けないからね。たまに外とか出たくならないのかなーなんて思っただけだよ」
「プレインはお外で遊ぶ方が好きなんだね」
「そうだね」

残念だけど君の望みは叶いそうにないね。
僕は、手の中のその紙をぐしゃりと握りつぶした。

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by sumomomoti | 2014-08-06 21:10 | モール・モール 駄文

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